放たれたクワガタ akko
黄昏時の我が家の廊下に
ひっくり返って助けを待っていた
闖入者のクワガタ
最近元気のない私に夫が放ったに違いない
昆虫学習サイトによると
寝床は細かく刻んだ新聞紙
餌はスイカより栄養のバナナがグッド
「明日からは私との二人生活だからね」
「もっと居心地いい部屋にしてあげるからね」
モゾモゾ カサコソ カリカリ
やんちゃに動き回る音を耳に
やれやれ 夜も更けて 眠りにつこう
だが早くも翌朝の鮮やかな逃亡よ
木箱にいるはずのクワガタ君がいない
切り刻んだ新聞紙の奥にあの3センチほどの
黒くて凛々しくカッコイイ君が身を潜めていて
ギザギザの大あごを高く突き上げて
私と一夜ぶりの麗しい対面をするはずだった
捜索はソファー、ゴミ箱、靴の中、カーテンの裏
家中を探しながら 諦めつつ やがて 悟る
慣れない世話で身の細る私を案じて
亡夫が彼を呼び戻したのだ
そうに違いないのだ、と。