歳月 津田古星
夕方、待ち合わせ場所へ行くと
友人が食事の前に買い物をしたいと言う。
郷里のお姉さんに出産祝いを贈りたいと。
私は快く同行した。
その時、私には三歳の姪がいたから
品選びのお役に立てるかと嬉しかった。
デパートのベビー用品売り場へ向かうエスカレーターで
彼の斜め後ろに立った私は
「こういう時を捉えて、彼の腕に手を添えたら
彼はどうするだろう。」と思ったけれど、
手を伸ばすことはできなかった。
売り場に着いて
彼は楽しそうにあれこれ見たけれど
私のアドバイスは聞き流して
アルバムを選んだ。
私のアドバイスなんて一つも必要なかった。
それでも、一緒に買い物に行くなんて
私には心浮き立つことだったのに
半年も経ずして、私は彼の前から去った。
彼の思い描く未来には
私は居ないと知らされたから。
彼との数少ないエピソードはすべて
淋しさに塗りつぶされてしまって
彼は、私と過ごす時間が
鬱陶しいものだったのかと思うと悔しかった。
いくつも季節が巡り、長い歳月が
その塗りつぶされた色を洗い流して
今、
彼が私と一緒に居て笑顔を見せた日を
おぼろげに映し出してくれた。