雫とりんどう 上田一眞
あけびの実を捜して
ふる里の山野を駆け巡る
柴栗の林を抜けるころ
喉はカラカラ
足が止まる
草叢に寝転がって休んでいると
微かな雫の音
ぽたぽたぽた
ぽたぽたぽた
木の根元から滲み出す水
大平山(おおひらやま)の湧き水だ *1
思わず喉がなり手を伸ばす
掌で受ける雫は
冷たく
渇きを癒す
湧き水が集まるところ
見ると
鐘形の秋りんどうが咲いている
沢を好む花
天に向かって開く藤紫の花穂
花びらに手を添え
瞑目すると
野山に咲くりんどうの花を愛した
母の笑顔が浮かび上る
*1 大平山 山口県防府市 牟礼〜富海