ギリシア 静間安夫
なるほど
あのころは
乏しい時代ではあったけれども
その代わり
ひとびとは互いに語り合い
思索を愛した
平和は長つづきせず
たびたび敵国の侵略にさらされたけれども
ひとびとは怒りと憎悪に身を滅ぼすことなく
常に冷静沈着
勇気と知略を持って
危難に立ち向かった
過酷な運命に
しばしば翻弄されながらも
ひとびとは
この世界の謎に目を凝らし
謎に挑み
やがて
万物の混沌の背後に
理を見極めようとして
哲学を生み出した
いつしか
ひとびとにとって
真理と美は同じものとなり
あふれる陽光と
打ち寄せる紺碧の波から
幾多の美しい神々の像を
創り上げた
まだ世界は若かった―
ために ひとびとは
世界は変えられる、
という信念を持ち続け
虚無に魂を売り渡すことを嫌った
精神と肉体を鍛え
徳を身につけることを忘れなかった
そうしたギリシア人の
叡智の結晶こそがオリンピック―
この祭典の間、いかなる戦闘も行わないことを
諸国間で取り決めた、ひとびとの平和への願いを
今こそ思い起こしたい
そして
爛熟と退廃の果てに
世界が老い、病み衰えていくこの時代に
ふたたび
かのひとびとの
永遠に若い理想を取り戻し
よみがえらせたい