おじいさん、良いことをしましたね 津田古星
小学生の息子が「笠地蔵」を音読するのを、
横で聞いていて、
このおばあさんのような台詞は
とても言えないなあと思った。
笠がひとつも売れなくて
雪の中のお地蔵様の
頭に被せてきたと聞いて
「おじいさん、それは良いことをしましたね。」と
おばあさんがねぎらう。
私なら、お正月のお餅が買えなかった不満を口にするだろう。
ところが、年はとってみるものです。
私にもおばあさんのような台詞が
言える時がやってきました。
夫が骨董市で古い懐中時計を買ってきましたが、
そのままでは動かないので、
夫は町の時計屋さんに持って行きました。
一ヶ月後、修理ができたと連絡がありました。
夫はいそいそと出かけ、帰ってきて
修理代が、思いの外高かったと言う。
そこで私は言いました。
「良かったね。」と。
夫は少しも良くないと苦い顔。
私はすかさず、
「良かったのよ、時計屋さんが。
珍しい部品を取り寄せ、
自分の技を振るえる仕事をして
それに見合った報酬を手にしたのだから。
修理を頼んだあなたも
時計屋さんの腕の高さを引き出したことを
喜んでいい。」
業は違えど、夫も職人の端くれ。
目出度し。