片方の松葉杖 荒木章太郎
片方の松葉杖をついて
少女が炎天下を一人歩いていた
俯いているわけではなかった
足元に広がる
原子一粒一粒を見据え
コツコツと道を確かめながら
何事も痛み分けばかりと省みていた
自業自得か
アスファルトの
照り返しが悪いのか
自責と他責のバランスを取りながら
カラスは輝くという理由だけで
足元に落ちていたコインを
表裏を確かめることもなく
奪い取っていった
さすがに動揺した少女は
靴紐を解いて
不自由を開放させて
理不尽と運命を結び目にすることをやめた
五分五分
ゴブゴブと
音を立てるのは
この暑さで液状化した俺達だ
色々な型に合わせられる液体は
平等であると
勘違いする優しさが
彼女に日傘を渡そうとする
浅はかな水溜まりだ
そんなものにはまらないよう
コツコツと注意深く歩いていた
危険な暑さだ
ゴクゴクと水を飲ませる
ペットボトルの水になる
覚悟がないことは
お見通しであると
コツコツと疑い深く歩いていた