靴 桜塚ひさ
靴 桜塚ひさ
誰しもそうであるように
体は選べなかった
みっともなくて不服でも
受け入れるほかなかった
が
靴は選ぶことができた
道に合わせ
天気に合わせ
おしゃれな靴より
シンプルな靴を
きれいな色の靴より
汚れにくい靴を選んできた
それでも
しばしば選びまちがえて
ひどい靴ずれに苦しんだり
自分で選んだつもりで
巧妙に流行の靴を選ばされていたり
急坂を上るのに
重すぎる靴を選んで
行き詰ったり
生きることは靴を選ぶことだ
今はもう
靴はいらない
室内履きをはいて
揺り椅子にすわり
うつらうつら
翼のある靴の
夢を見ている