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スレッドNo.4336

天の賜物  津田古星

6年前に、耳の炎症が何ヶ月も続き
ついに鼓膜に穴が開き
さらに治療に半年近くかかっても
鼓膜は回復せず
片方の耳が、ほとんど聞こえなくなった
聞こえの悪さは仕方ないと諦めたものの
耳鳴りが耐えがたくて
1日24時間1年365日絶え間なく
これが一生続くのかと思ったら
パニックに陥り、鬱々とした
それでも人間はどんな状態にも
適応するらしく
しばらくしたら慣れてきた

耳を悪くして気づいたことは
これは天からの賜物だということ
今まで、いかに心にも体にも
無理なことを強いて
それが当たり前だと思っていたか
多くの人が集まって
同じ行動をする事の息苦しさに
目を瞑り
とにかく自分を抑えて努力することが
良いことだと思っていた
親の生き方も学校もそうだった
真面目に律儀にこなすこと
すべてに全力投球する事こそ
社会に貢献することだと

身体の丈夫でない私には
人並みなことをするのに
人の何倍かの努力が必要だった
その努力さえも、人から見たら
怠けているようにしか見えなかっただろう
皆の生き方に違和感を持っていた私は
もしかしたら、異常なのは私ではなく
世間の方ではないかと思い始めた

ある時、不整脈が出て
私は人の集まる場所へは
行かなくなった
でも生きてゆかれる

そのうち感染症が世界に広まって
人が集ることがタブーになった
私にはとても快適な生活になった
不整脈は一時的なものだったが
先へ先へと物事を進めるために
自分を追い込むことはやめた

私はもうできないことは断れる
耳は不自由になったが
生き方は自由になった
私にできる社会貢献は
私が楽しく元気でいることと
言えるようになったのは
片方の健全な鼓膜を失ったから

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