凪 理蝶
街の呼吸を
しずかにきいている夕凪の時間
こんな尊い夕暮れにも
ひとは絶望をしてのけるんです
よく膨らむ肺も まじめな心臓も
濡れたくちびるも 自由のきく四肢も
みんな与えられて
そしてまた
それら全てがこのうつくしい夕暮れに
染められているというのに
ひとは絶望をしてのけるんです
とめどない日々に
じっと耐えるための筋肉
千のバーベルをすり抜ける
鍛えようのない すき透る筋肉
それだけは 僕に与えられなかったんです
そのせいで僕は 大切なものを
ゆっくりと ただし確実に
失ってしまったんです
西の空に 易いこたえを
求めにいってはやはり
だめなんでしょうね
凪が終わると
とたんに風はつよく吹きつけてきました
風は僕をぶったつもりだったのかしれませんが
それすらも
やさしく頬にひびいてくるのでした