食事の用意 相野零次
夢見ることって大事なこと。いつか忘れてしまったことがどこか
にあるから、今日は列車に乗って銀河を旅しよう。うさぎのスープ
とこぶたのマカロニを持って。青い地球ってこんなに美しいんだね。
僕が知らない世界がこんなに僕を驚かせる。反対の意味で出来た
雲、言葉を知らない雷。不思議な自然現象で表せられるこの世界。
君はどこにいるんだろう。
北極の熊から南極のペンギンまで、驚いたらこっちの勝ち。温泉
には肩まで浸かって、冷えないように。宇宙の色って何色? みど
り色、青色、黄色、もっといろんな色。押し寄せる夕日が僕の記憶
を想い起こさせる。
おとうさん、おかあさん、僕は元気です。地平線の向こうに吠え
る。ライオンみたいにね。意味のない意味。色のない色。何もない
ところから全てが産まれ、全てあるところにみんな還っていく。そ
れが地球らしい。
僕と君も地球で産まれた。おとうさんとおかあさんも。春が来た
らみんな産まれる。冬が来たらみんな死ぬ。夏に鳴いたセミが、秋
にもみじになってはらりと落ちる。
全部繋がっているから、全部おなじものなんだって。だから名前
なんて人間が勝手につけたものだから、なんでもいいんだ。飛ぶも
のは鳥じゃなくてゾウだっていいんだ。空をはばたくのはキリンだ
ってかまわない。地球はもっともっと混沌としている。
そしてみんな思い出す。自分が自分じゃなかった頃のこと。人だ
ってかつて人じゃなかった。虫だったり鳥だったりした。牛や馬、
猿にだってなれた。選択したのは僕じゃないし、君でもない。でも
、僕は僕で、君は君として生まれ、ここにいる。不思議だね。
世界に紐づけられて、名を与えられて、親がいて、僕と君がいる。
混沌とした鍋のなかから、神様がお箸でつまんで、用意された食器
のなかにみんな並べられて、完成したんだね。神様の料理だね。美
味しいのかな? きっと。
今日は教えてもらえました。世界の理を少しだけ。旅はまだまだ
続くけど、終わりは必ず訪れる。神様たちが僕たちを食べ終わった
ときがそのとき。
いただきます、ごちそうさま。