「分からない」と「希望」を宇宙で繋げて 松本福広
日の出の写真を撮りに来た。深夜4時のドライブスルー。夜中4時の曇天。
あの山を撮るのに、ここは格好のビュースポット。車の中でタバコを燻らせながら日の出を待つ。暑い今の時分は寝ようとしても寝られない。
そんな時は普段は考えないことも考えてしまうものだ。
ギシリャ神話の『パンドラの箱』のエピソード。パンドラはゼウスに「開けてはいけない」という言いつけより好奇心が勝ってしまい開けてしまう。すると箱の中からは、考えうる『あらゆる』災いが飛び出し、以後人間はこれらの災いとともに生きていくことなる。パンドラが慌てて箱を閉めたところ、箱の中には『希望』だけが取り残された、という有名な話。
パンドラの箱の中に残った希望。私はその本当の意味は知らない。
災厄は「あらゆる」という言葉を使っている辺りに様々な種類があることが伺える。対して「希望」は一つしか指さないのだろうか?
そんな「謎」が希望にはある。謎は分からないことがあるということ。それは想像する余地があるから余白と呼ばれるものだろう。
分からないことが多ければ多いほど余白は大きくなる。
そんな余白という見えないところに真実があるのかもしれない。
それゆえに分からないことを認めて。
分からないことを調べて。
分からないことを考えて。
分からないことが増える。
宇宙の膨張は限りなく膨張し続けるのか収縮を目指しているのか、その答えは知らないまま。
それはパンドラの箱の謎に重なるようで。
分からないを膨張させる果てに、希望を見出す過程を辿るか、真実に収縮するか。きっと、それらの答えは自分の視点からは分からないまま。
燃え尽き小さくなっていくタバコに似ている自分の、ここに在るという有限を感じながら。日の出の時間を迎える。
曇り空ではない空だった。夜と朝が変わっていく過程。昨日の夜空を残して今日の空へ変わる。
昨日わからなかったことは昨日としてピリオドを打つ。今日分からないことがまた生まれる。
銀河の薄膜のような夜空だった色と、青の光と、白い雲が流れ始める。今日という色が作られ、グラデーションがかった時間が彩られていた。この空は太陽を迎えていく。今日が生まれていく輝きに抱かれて、ゆっくりと、しっかりと今日を膨張させていく。
その光景をとらえながら写真集で使いたかった漢字の読み方になぞらえる。
朝と書いて「あした」と読むことを。
※参考にした宇宙の知識
開いた宇宙、閉じた宇宙
国立科学博物館 解説 URL
https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/theory/theory05.html