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スレッドNo.4379

花火  秋さやか

ようやく祖母の通夜が終わり
帰りのマイクロバスに乗る

熟れきった疲れを
背もたれに預けて目を閉じると

日本は何県あるんだっけ
などと
年老いた親戚たちの
とりとめのない会話が聞こえてくる

無垢な白髪を
夜へ浸しながら
そんなことも朧げになってゆく

死を畏れないための
やさしい忘却の果てで
祖母は眠っていた

しにたい しにたいと言う人だった
けれど
忘れてゆくことは畏れていた

それとも
忘れられることを畏れていたのだろうか

ゆらめく記憶の尾鰭を
追いかけていると
とつぜん大きな破裂音がして
窓に映るわたしと目が合う

親戚たちの会話はあっけなく途切れ
みな一斉に見つめる窓の外

夜を喰らうように
打ち上がる花火の鮮やかさが
夜に濡れた瞳を占領する

歳を重ねて
大切なものを失ってゆくたびに
色褪せていった花火だけれど

今夜は
泣きたいほどに美しかった

夜を越えて打ち寄せてくる
花火の振動に

人生そのものが
肯定されているような

いつも唐突に訪れる
その感覚を知っている

歩くことと葛藤しながら歩く
長い道のりで

ふと立ち寄った画廊の
絵画のなかでたたずむ
白馬の神聖さ

圧倒的な力に包まれ
宇宙の一部となって見まもる
天体ショー

そっと抱きあげた
産まれたばかりの
剥き出しの命

この瞬間と出会うために
生きてきた

そう腑に落ちる瞬間

ここからまた
生きてゆける

そんな瞬間が
祖母にもあったはずだと
思わせてくれる

慟哭のように
歓喜のように
夜へしずみゆく花火を

一心に見つめていた

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