感想と評 8/9~8/12ご投稿分 三浦志郎 8/18
1 荒木章太郎さん 「星吹くクジラ」 8/9
冒頭佳作です。「目クジラ」がふるってますね。二重の使用例です。想像上のクジラといわゆる人間が怒る時の表現です。ここに面白さと真面目さがあります。この詩の主人公はあくまで「俺」。
目クジラについて海に向かう。其処で行われることはー? この詩にはいろいろな要素があって、ファンタジーや童話的に読むことも出来るし、自己や世界に対しての学びもある。ユーモアもある。少量の哀しみもある。それらを語る詩行もきれい。今までにない求心力のようなものも感じることができます。大分こなれてきた気がします。一番好きかも。よって上記の評価です。
2 理蝶さん 「凪」 8/9
初連・2連は詩行として第一級だと思いますね。とりわけ目を惹くのは「~のけるんです」ですね。
詩的純度の高い各連で語られているのは、3連では人であることの哀しみのようなもの?
4連からは一転して、その憂いを自己のところまで降ろしています。どちらも身体性に関わることを問題にしているように読めました。上記のようなトーンで詩はフィニッシュを迎えますが、最後「やさしく頬にひびいてくるのでした」―ここですが、やさしい、に越したことはないのですが、この詩の基調トーンからすると、仄かに違和感を覚えたしだいです。これは好みの問題でいいのかもしれない。佳作はキープされます。
3 上田一眞さん 「被爆」 8/10
お馴染みの調べもの。今回は「温品」ですね。面白い地名ですね。なるほど、爆心地からは少し離れているのが理解されます。横川駅も含め、概ね位置関係も理解できました。二人の伯父上の行動は比類なき勇敢と健気です。根底に人助けの精神がないと出来ないことです。ここに見る惨劇の様相は、親族の目撃談だけに実感が伴います。実際に上田さんが聞かされたのでしょう。それと同時にこの作品の主な特徴となっています。当日の現場では放射能があることは知らないだろうから、伯父上も被爆したことになります。詩は以降、現代性を帯びてきます。現代社会の為政者のことです。流れとしては多少の違和を覚えながらも、これは書いておかねばならないことです。アメリカでは日本への原爆投下を是認する人は少なからずいるんです。とにかく日本は唯一の被爆国として声を上げ続けなければならないが、日本自体痛点になるのは日本が核兵器禁止条約に参加していない点でしょうか。当面、このジレンマをどうするかにかかっているような気がします。作品の性質上、評価は割愛させて頂きます。
4 詩詠犬さん 「アイスティーをのむ」 8/10
これは逆に評価が難しいのです。詩の主要部は2連、3連と目されますが、この詩は内容が極端に局限されているので、疑問も自然、多くなります。曰く「では、どんな飲み方なのか?」「他の飲み物ではなく、何故アイスティーなのか?」「この詩の真意は何処にあるか?」etc……、でしょうか。たまたまアイスティーを飲んでて、浮かんで来た背景はありそうです。それとも奥にもっと深い何かがあるのか?僕の中では、要約として、「無意識と連続性」そんな概念が浮かんで来たのですが……。評価は保留させてください。
5 秋乃 夕陽さん 「青い鳥」 8/10
これで普通考えられるのは「幸福の象徴」ということです。実話でしょうね。フィクション度は低いと思います。アンテイークな物が置いてあるような、ちょっと個性的な店を想像できます。2連、3連が面白いですよね。ここの感じ方と書き方ですね。2連はちょっとびっくりしそう。OFF気味の照明に照らし出されて、幻想的というか、やや不気味か?そんな場面を想像しそうです。3連は秋乃さん自身の受け取り方。終連の「少しぞわり」が案外この詩のホンネかもしれない。これが幸せの象徴とするならば、天井とは、相当珍しいところに予兆はあるものですなあ。甘め佳作で。
6 相野零次さん 「食事の用意」 8/12
相野さんがこういった種類の詩を書くとは、ちょっと驚きでした。
長いので、自分なりに段落に区切って読んでみました。まず「僕と君」がいる。そして「おとうさんとおかあさん」。これらは広義の生きものとしての「人」と捉えてもいいでしょう。そこから同心円的に広がる自然~世界~地球のこと。究極は神まで行き着きます。そういった森羅万象への思い。それらを修飾する言葉群は想像やイメージを思い切り奇抜な方向に飛ばしている。タイトルから察すると「世界に紐づけられて~」以降、終わりまでがこの詩の肝のような気はします。ごめんなさい、今までとまるでタイプが違うので、この詩の仕上がりがどうなのか、判断できません。評価保留とさせてください。
7 静間安夫さん 「解体工事」 8/12
廃屋の多さが問題になるご時世で、解体~更地~新築はまずまず健全なほうでしょう。
しかし家の解体とは、やはり一抹の淋しさを伴うもの。そんな事情をこの詩は上手く掬い取っています。冒頭が工夫されています。こういう出だしは物語を感じさせていいですね。まずは元持ち主の人柄が語られ、近所の人々はその工事を多分に感傷的に見る。ところが、工事業者は、そんなことはお構いなしに自分たちの仕事を機械的に遂行していくーその落差でしょう。
過不足なく言い切れていると思う。終わりの2連は(ああ、なるほどー)。また新たな悲しみに気づかせてくれます。ありがちな風景ながら、上手く捉えて佳作です。
8 温泉郷さん 「バタフライ・エフェクト」 8/12
まずは思考発出の時は、こういった丁寧語を使うとマイルドで静かで優しいトーンが出て、いいものですね。たとえば純粋な気持ちで発した言葉が大きくなって波紋を広げる。ありがちなことです。
早い話が、その人の為を思って言った言葉が「〇〇ハラスメント」になりかねないご時世です。
ただ、この詩の主旨を突き詰めてしまうと「だったら沈黙していれば」といった考えも成り立つのですが、それはこの詩の本意ではないでしょう。3連と5連の主旨を思い、静けさと優しさを味わうことにしましょう。佳作です。
評のおわりに。
まだ夏ですが、暗くなるのが早くなり、夜が明けるのも遅くなってきました。こうなってくると、僕は凄く憂鬱になります。
兆しとは人知れず、存外早く仕込まれるもののようです。 では、また。