夏の日 人と庸
ふいに
重いカーテンがゆれ
奥の方へしまいこんでいた記憶がなだれこむ
鼻に脱脂綿を詰められた
君のさいごの顔
深くこけた頬の陰影に
君の人懐こい笑顔ばかりが思い出される
このカフェは
全面窓から申し分なく光を招き入れている
何ものをも拒まないこの空間に
思いがけず君もやってきた
君とわたし
束の間おなじ景色を見たはずだった
でも 行き着いたところはまるでちがった
(明日の夏祭りには、
うちからもキッチンカーを出すんですよ)
カフェのマダムの 明るい声がする
そうだ
今はお盆の只中だった
お盆だからあいにきてくれたのか
こんなに情の希薄な従姉の元へも
通りには絶え間なく車が走る
聞き分けのよさそうな顔をして
カフェを出たわたしも車に乗り込み
それを操る
ルールを守っていますよ というすまし顔で
夏にかすんだ空の下
幾台もの車が軽快に走り抜けていく
いつでもどこでも
それが凶器になる可能性を孕んで
(この いくつか先のまちだった
君が凶器に倒れたのは)
しぬことも
ころすことも
すぐそばにある
進む道の先に
積乱雲が山脈のように連なっている
あそこに行き着くまで走ろうか
その下では大雨かもしれないが