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スレッドNo.4412

耳元にはたこくらげを 紫陽花

きっとまたこの夏を私は忘れてしまう
夏に限らず最近の私は忘れっぽい
特に夏の海が好きなのに
去年足だけ浸かった海の色さえ
もうあんまり覚えていない
ただ今年は暑すぎたせいもあって
海に行かなかった
このままでは私の大好きな
夏の海まで忘れてしまうかもしれない
そんな焦燥感にかられながら

先週いつも通りベジタブルマルシェに
晩御飯の野菜を買いに行った
自転車を店の前に停める
店の前には花のコーナーがある
はずの場所に花がない
代わりにぽんとひとつ白のぼりが立っていた
入道雲みたいに意志を持って
ひとつ大きく立っていた
夏の海と書いてある
どうやら移動販売のようだ
今日だけなんですと
真っ黒に日焼けした男性が
マルシェの店先に海を並べ始めた
白い砂をさらさらさらさらと
そこにシーグラスを青白茶
それから目にも鮮やかなヒオウギ貝
オレンジに紫に黄色
耳の奥の方にザザーザザー
優しい波の音が響いてくる
それはだんだん静かになって
小さな白っぽいタツノオトシゴがゆらゆら
青い小さなたこくらげもゆらゆら
たこくらげは青色をしていて
くらげらしく透き通っている
少し深い海の中に入っていくようだ
たこくらげはところどころに白っぽい水玉
一定のリズムで伸びたり縮んだり 
頼まれてもいないのに
伸びたり縮んだり ただただ繰り返すリズム
目にも鮮やかな夏がここにある
とても綺麗なので
野菜を買いに来たことをすっかり忘れて
青いたこくらげを見つめていた
すると先ほどの男性がにこにこ近づいてくる
夏の思い出にたこくらげと暮らしませんか
男性が青いたこくらげを手に取ると
たこくらげはキラキラ透き通る
ガラス細工のイヤカフになった

そんなことで先週から私は
ずっとほのかな海鳴りと共に
透明な青いたこくらげを耳元に揺らしている
この夏を忘れませんように

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