叫び
叫び
たすけてぇ
やめてぇ
おいていかないでぇ
叫んでいる
朝に夕に
時には真夜中も
静かな通りに鋭い叫び声が響く
叫んでいるのは
お隣の
老母を突然亡くして
心を壊した一人ぼっちの女(ひと)だけではない
すべての孤独な魂が叫んでいるのだ
大切な人を失った人かもしれない
世の中に椅子のない人かもしれない
賑やかに仲間たちとグラスを傾け合っている若者かもしれない
群れているママ友たちの中のママかもしれない
出勤途上のサラリーマンかもしれない
アフリカの原野を歩けない動物園の象かもしれない
一生おさんどんだった私かもしれない
ある日隣家の前にパトカーが三台停まった
お巡りさんが十人ばかり
一時間ほど滞在して帰って行った
通報したのは
壊れることで生き延びたくはない人だろうか
法律は
孤独な魂をとりしまれるのだろうか
二階の小窓から覗く
青白くこけた頬の
叫びは地面に届かない
硬い地面には届かない
今日も叫んでいる
荒野をさすらうかのように