フルートの音色 上田一眞
黄昏れ時 湖畔の小径を歩くと
風に 軽く押されて
葭(よし)の葉が揺れている
湖岸のどちらからか 風に乗った
フルートの音(ね)
ハンガリア・ロマの音楽に影響を受けた
ドプラーの名曲
「ハンガリー田園幻想曲」だ
東洋的で瞑想的な響き
ノスタルジーが漂い
僕のこころをくすぐる
ふと見ると 若い恋人ふたり
小径から湖面に降りる石段で
肩を寄せ 水面の月を見入っている
身じろぎもせず
こころとこころを重ねあう恋人たち
明日に向かう ふたりの道ゆきを
語りあっているのだろう
湖面を流れる風よ
はたして
恋に浸る男女に
フルートが奏でる愁いは届いているか?
さても
ふたりの若さが妬ましい
もはや忘却の彼方に去った
あの恋のときめき
愛のゆらぎ
いやいや 僕なりに
フルートの音色を頼りに
老いらくの
たまゆらの恋を
黄昏れ月の下に捜してみるとしよう