春 相野零次
夜の街を徘徊したら、アイスクリームを食べて眠りにつこう。悲しいことが心を傷つけるから、ゆっくりと自分のペースで歩いて、夜空の月に身体をさらして、癒しを得よう。
花が咲いた。もうすぐ春だ。なのに、僕の心はそんなことも忘れて、冬を過ごした。おかげでひどく傷ついていたことに、気づかなかった。
おいしいスープを作ろう。
桜の花びらを浮かべて、誰かの優しさを調味料に加えて、倒れてしまった僕をいたわりながら、じっくりコトコト煮込んでいこう。
ほら、今、何かが笑ったよ。猫かな? 鳴き声が聞こえた。
思えば、自然の心に自分の心を通わせることも忘れてしまっていた。大事なことなのに。春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)、季節の味わいを忘れてしまっては、途端に人生は味気なくなる。無味無臭になる。空虚になる。
そんな心で毎日仕事をしても、億劫になるのは当然だ。
そして僕は倒れてしまった。
同僚には心配をかけた。先生にも改めて相談しなきゃならない。
ちゃんと元気になって、おいしいうさぎのスープをまた作れるようにしなきゃ。
まずは春という季節の習わしを、僕はちゃんと受け入れよう。