太陽の匂い 理蝶
晴れた日に干した布団に
顔をうずめる
ふかふかと漂う 太陽の匂い
どうしてこんな匂いがするかなんて
その仕組みなんて
多分知らない方がいい
日光のやさしい香水が
布団にのこったのだ
そう考える方が
世界はゆたかに
流れるはず
そういうことって往々にしてある
知らない方がいいこと
わからないからきれいなこと
いつだって
無知のもやの奥から
魔法はやってきて 世界に灯される
五感をもって
世界をめいっぱいかきあつめて
それに 意味を与えつづける
そんな せわしない定めならば
ただしさより うつくしさ
定理より 物語
僕はそれを信じたい
ふかふかの布団に顔をうずめる
やわらかに焦げくさくて
いつ匂っても なつかしくなる
照れくさい匂い
ロケットがたとえ
明日 太陽まで飛んでも
そこでひょうきんな宇宙飛行士が
布団を干して
一瞬にして それを消し炭にしてしまっても
地球の 僕の ワンルームでは
この匂いは
ずっと 太陽の匂い なのだ