本当のことって残酷 紫陽花
生まれてこのかた どうしてだか
いろんなところからはみ出して
昼のお日様には全てを
見透かされているような
そんな気持ちがして
明るい日差しの下では
妙に居心地が悪かった
とはいえ 明るい日差しの下は
私にとっての永遠の憧れでもあるのだが
そんな感情の延長戦上で
私は夜に働くことにした
紫陽花ちゃんには夜が似合うよなんて
1週間前に知り合った年上の男性から
スナックジュリのママを紹介された
ママはとても優しくて
氷の割り方
グラスの洗い方
私がもらっていい時給
お客様の名前もろもろ
全部教えてくれた
私はそのうちママが大好きになった
ママはいつも私に言った
あなたは素直すぎるから
なんでも信じちゃう
なんでも信じちゃだめ
私がさっきあの人に言ったことも
全部嘘だから分かった?
売上の悪い日のママの説教も
お得意様豪遊の日のママの笑い声も
私は全部大好きだった
そして帰り際に釘を刺される
全部嘘だから信用しちゃいけないよ
そんな一言でその日一日を忘れられた
明日はもしかしたら
真っ白で明るい日の下が好きな
女の子になってるかもしれない
そう思えた
そんなママが子宮がんで
お店を閉めることになった
ママは真剣に私に
このお店のママになりなさい
もっとしっかり教えるから
見たこともない真剣な顔をしている
いつものようにこれは嘘だからと
言ってこないから本当なのだろう
ただ私はママみたいに
正しく嘘を使いこなせそうにない
私は心からいつもの通り素直に
すみません できませんと謝った
謝りながら ママから
嘘だから 全部嘘だからという
あの少し冷静な声だけを待っていた