So long 津田古星
手紙を書くとき 必要な物が三つある
はがき または便箋
相手の住所
伝えたい気持ち
彼のアドレス帳に
私の住所が記してあったんだね
それを持って海を渡った
新しい生活の中で 絵はがきを何枚か求めて
その一枚に私の住所を書いた
細かい文字を書き連ね
自分の住所もきちんと書いた
私が返事を書くと思ったんだろうね
それまで私が返事を書かなかったことは
一度もなかったのだから
エアメイルが毎月来て
四通目は絵はがきではなく封書で
日本に帰って働きますと言って
最後に何て書いてあったかな
See youだったか
So longだったか
そこにも彼の気持ちが表れていた
だから 私の勘違いではなかったと思うよ
彼がロンドンにいた時
私の便りを喜んだのは確か
私の送ったお煎餅を
お米で出来たジャパニーズクッキーと言って
下宿のミセス何とかさんにもお裾分けしたと
楽しそうに書いてきたもの
彼が帰ってきて
新しい住所と職場を知らせてきて
そのうち私への返事が間遠になり
ついに届かなくなった
彼のペンからは二度と
So longは書かれなかったけれど
あの夏 彼も幸せだったことは
信じていいんだよ