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スレッドNo.4534

待合室  秋乃 夕陽

まだ残暑厳しい夏の日差しを
体のうちに残しながら
クーラーの効いた病院の待合室で
自分の名前が呼ばれるのを待っている

なんとか予約時間に間に合うように
自宅から病院まで必死になって自転車を漕いで
時間よりも10分早く辿り着いた

今は薄緑色のソファーにゆったり腰を下ろしている
涼しい風が耳元から首筋にかけて
吹き抜けてゆくのに
汗はまるで湧き水のように滲み出てくる

私は大きめのトートバッグに
会社から送られてきた社員申告書を入れたまま
健康欄にそのまま
病気のことについて書くべきかどうか
その対処に困惑し頭を悩ませていた
医師に相談する内容すら決めかね
気分を多少なりとも落ち着かせるために持ってきた
単行本にも手をつけず
ただただ佇む

思えば二十年近く
あんな職場でよく働いてきたものだ

正社員登用をちらつかせた求人情報に
思わず乗っかり
時給制契約社員として働き始めたものの
常に重い責任を負わされ
評価次第で給与は不当に減らされ
異議を申し立てればたちまち目をつけられ
私の発言が企業のブランドを傷付けたなどと
隙をつけ込まれて懲戒処分となった

立ち上がる気力すら奪われた挙句
まるでトドメを刺すかのごとく
上司を始め周りからは無視され悪口を囁かれ
新しい仕事を私だけ与えられずに
雑用ばかり押し付けられ
そのくせ逐一業務に関する行動を
監視され指摘されて
脅されることが日常茶飯事となった

それでも女手一つで育ててくれた高齢の母を支え
家計を助けるために耐えて耐えて耐え抜いてきた
しかしいくら頑丈な金属でも
長年風雨にさらされボロボロに風化してゆくように
精神は限界を迎えて不眠という形で表れ
否応なしに長期休職せざる終えなくなった

そしていま精神科の待合室で順番待ちをしている

湧き出る汗がやっとすぅっとひいてきたようだ
「秋乃さん、どうぞ」
涼やかな看護師さんの声に思わず
「はいっ」と反射的に立ち上がり
社員申告書の入ったバッグを慌てて抱え
私は真っ直ぐ白い診察室のドアまで歩いて行った

編集・削除(編集済: 2024年09月13日 10:09)

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