虫干し 晶子
実家の本の虫干しをしなけりゃならない
気をつけなければ
死番虫のせいなのか
私たちの扱いが荒かったのか
糸綴じ本の糸が緩んで
ばらばらになってしまうことがあるから
ずっとあると思っていた
私たちの歴史の本が
離されることはないと思っていたページたちが
いとも容易く離れていくことがあるから
必要ならば破れていない部分を切り開き
これまで懸命に繋ぎ止めていた糸を切って
新しい糸で
また新たに綴じ直し
しっかり締めなければならない
残された私たちの手で
死番虫よ
私たちの紡ぐ歴史はお前と共にあるけれど
失うということを教えてくれる者だけれど
蒸し暑いこの国の夏に
お前たちは増え過ぎる
もういいだろう
お前たちが多くを貪り過ぎるから
遠くに見える木陰さえ
喪服の色に見えるのだ