青 秋さやか
空が濃くなってきたから
もう海が近いね
車を運転しながら
あなたが言った
空が濃いってどういうこと
とわたしが問うと
海に近づくと空の青が
濃くなっていくでしょ
と当たり前のように答える
初めて聞いた
その新鮮な感覚にときめいて
遠い空を見つめる
小学生のころ受けた色覚検査で
色弱だと告げられて以来
わたしの見る世界は
人と違うと知った
眼鏡屋さんの
補正メガネで見た世界は
鮮やかで
明るくて
美しすぎたから
このままでいいと買わなかった
曇天に溶けてしまう桜の輪郭も
黒と深緑のワンピースの区別も
火が通りきらない
肉の赤さもわからないけれど
すべてあなたが教えてくれるから
わたしはこの色褪せた世界を
安心して
いつくしむことができる
ここはわたしが思うよりも
鮮やかで
明るく
美しいのだと
分かち合えないものを
分かり合うために
想像する
海へとつづく道の途中
絵筆からこぼれる
一滴のように
あなたの詩情が
わたしの空を
青く深めてゆく