神様と悪魔と僕 相野零次
僕は愛を信じない。裏切りこそが真実だ。
昨日切った手首の傷跡がズキズキと痛む。
泥のような眠りだけが僕にやすらぎをくれる。
睡眠薬をありったけ飲んで、ビールで流し込もう。
不謹慎な僕の想像力。人類全てを敵に回してしまえ。
台所の包丁で武装したら、血祭りショウの始まりだ。
神は僕に何を与えたのか、何も与えなかったのか。
僕は泣いているのか、哭いて生きるのか。
玄関の扉を開ける、太陽がぎらぎら眩しい。
背中の扉がきしんで閉まる。もう後戻りできないぞ、と。
僕は走り出す。手当たり次第に切りつける。
悲鳴が聴こえる。どこか遠くに僕がいて、ここにいる僕は別の人間みたいだ。
不気味な笑い声が聴こえる、悪魔がわらっている。
僕は悪魔に手足を操られている。だから僕が悪いんじゃない。
悪いのは誰だ?
神様の声が聴こえる。神様は嘆いている。
悪魔の手先になった僕を憐れんでいる。
一日が終わろうとしている、とても長く短い一日が。
何人のヒトを殺 したのだろう。数えきれない。
僕は裁きを受け、罰を受けるだろう。死 刑という罰を。
そうか、僕は死 にたかった。だからヒトを殺 した。
ヒトを殺 すことで、僕を殺 して欲しかった。
死 にたいということは、生きたいという意味ではないだろうか。
僕はもっとヒトと関わって生きたいのではなかろうか。
深層心理を知るためのテストを、病院で僕は受ける。
僕は実験台にされる。テストの結果によって、行先が決まるのだろうか。
僕はどこへ行くのだろう。不安だ。不安が嫌な想像を加速させる。
僕は何人でも殺 すだろう、ヒトを、自分を。
そうして何度でもやり直すだろう、人生を。
今夜も薬を飲んで眠る。効いているのかいないのか? よくわからない。
でも飲まないと、僕はまたおかしくなるかもしれない。
病院は退屈だから嫌だ。お金もかかるから嫌だ。心配をかけるから嫌だ。
嫌なことばかりが僕の人生の大半を占めている。辛い。
僕が好きなのは歌うことだ。
歌をうたうと嫌なことも忘れられるし、録音して後から聞くと、悪いところも良いところもはっきりして、清々しい。
だから僕は歌う、例え一人でも。
そうして世界と戦っているのかもしれない。
良いところと悪いところが人生にはあって、どちらが上にくるのか、毎日、秤にかけて比べている。
神様と悪魔が戦っていて、僕はそのどちらかに属している。
今日、僕は裏切者だった。だからたくさんヒトを殺した。
明日は、できればヒトを救いたい。
明日は、神様のしもべになりたい。