MENU
940,947

スレッドNo.4591

もう羽ばたかないわたしのこころよ  静間安夫

いつの間にか
羽ばたくのを忘れてしまった
わたしのこころよ

むかし
青春の真昼どき
ほうっておいても
おまえは空高く舞い上がり
自由自在に飛翔し
いかなるところにも
舞い降りたのに…

あるときは
あふれ出る情熱と
愛のことばを携え
美しい人の窓辺へと

あるときは
自由を抑圧する者への
怒りのメッセージを携え
抵抗運動の現場へと

おまえは
想像力の翼を思いっきり広げ
軽々と辿り着いたのに…

それが
歳月を重ねていくうちに
あちこちが錆びつき
ゆがみ、ひびが入り
力強く羽ばたいた
あの日々が
今となっては嘘のよう

しかし
なぜだろう?
手入れを怠ったとは
思えないのに…

油もさし
古くなった部品も交換して
それなりにメンテナンスに
気を使ったはずなのに…
なぜだろう?

読書もし
音楽も聴き
絵も鑑賞し
こころに栄養を
与えてきたはずなのに…

いつの間にか
わたしのこころは
感動したり
ときめいたり
陶酔したり
そんなこととは
無縁になってしまった

恋をすることも
怒りの声をあげることも
絶えて久しい

かわりに
日々抱え込む
不信と懐疑は募る一方
そのせいで
こころの内側にできた亀裂から
「人生は、そして
 世界は変えられる」
という信念は
あえなく こぼれ落ち
憂鬱と無気力に囚われた
日常が続いている

もう一度
はばたく こころを
とりもどせるだろうか?

でも
それは容易なことじゃない

なぜなら
ちょうど生き物たちのいのちの輝きが
くっきりと四季に縁どられているように
人生の春夏秋冬の進行とともに
肉体だけでなく
こころも衰えて
枯死する運命を
まぬがれることはできないから…

今、わたしは夏の終わりを生き急ぐ
虫たちの声を聴きながら
その苦い定めを噛みしめている

「さりとて このまま
 虚無の暗がりの中へ
 ずるずると沈み込んでしまうことだけは
 どうしても耐えられない」
そう かぼそい声で訴えているのは
他でもない
まさにわたしのこころなのだ

ならば
そのこころを
これまでと違う何かで
みたしてやらなくてはいけない
感動でもなく
ときめきでもなく
陶酔でもなく
恋でもなく
怒りでもなく

そうなのだ
はばたくことができないのなら
別の何かを見出すべきなのだ

果実が秋の日差しを受けて熟したのち
木々が黄金色の葉を落としていくように
虫たちが卵を産みつけたのち
役割を終え
大地におちて他の生物の養分になるように

この季節には
この季節なりの処し方が
あるのではないか?

はばたく季節があってよいし
枯死の季節があってよい

ならば
その処し方とは
こころのどういう有り様を
言うのだろう?

まだわからない
ただ
虚無に抗う毎日を生きるなかで
自己と世界を
冷静に見つめ直すことー
移ろいやすく騒々しい外界のものごとに
かき乱されることなく
却ってその向こう側に
永遠に変わらない摂理を
見出そうと努めること―

そうした平静な
こころの持ち方が
一時の感動やときめきを通して
もたらされるものとは違った
新たな世界を
垣間見させてくれるかもしれない…

今はそれだけしか言えないのだ

編集・削除(編集済: 2024年09月24日 17:39)

ロケットBBS

Page Top