響灘 津田古星
私ほど素直な人間はいないと思うけどなあ
(そういうこと自分で言う?)
私は直球しか投げない
(単純で進歩がないということね)
そんな私でも
彼に聞けなかった事もあれば
言っていないこともある
彼は私が居なくなってどう思ったのか
やれやれと肩の荷を下ろしたように
さっぱりと軽い気持ちになって
翌日からいつものように元気に働いたのか
それとも何かを考えたのか
私を思い出すことがあったのか
ほんの少しでも淋しさを感じてくれたのなら
私は慰められたのだけれど
彼に最後に会った三ヶ月後
私は彼のふるさとの海を見に行った
彼はそんなことは知らず
都会で忙しく働いていただろう
私はその旅で初めて日本海を見て
二泊して帰ってきた
電車の窓から夕日が海に沈むのを見て
もうこの先の人生には
彼はいないと思っていた
その時買って来た土笛が
まだ ここにある
三十八年経って
彼がふるさとの海の美しさを伝えてきた時
私もその海を見たことがあると
返信したくなったけれど
やっぱり言えなかった
彼にどう思われるか
ためらう気持ちが まだあったから