彼岸花 荒木章太郎
仕事帰りに
教会に立ち寄り
牧師に懺悔して
悔い改めたら
終電に間に合わず
孤独の夜道を帰ることになった
頭上では仲秋の月が
四角に変形して
サイコロのように回っていた
スロットマシンみたいに
三つの数字を映して
その顔をカタカタと変える
統計とか法則とか宿命とか
血眼になって縋ってきたものとか
カタカタと輝いている
なんて欲望と欺瞞に満ちた
不安定な空か
これまで人の厚意に甘えて
夜を明かしてきたから
いざ憎しみの街で
お前は加害者の側だと
こめかみに罪を突きつけられても
言い訳しか見つからず
夕闇は残念な顔をして
幕引きを告げたものだ
何も差し出せずに
命乞いをしては
街を去る毎日だった
都市はこんなにも砂漠か
信じる事と疑う事の
国境線で彷徨う先に
彼岸花が咲いていた
確かに全てが平等にみえる
もう人に赦しを
乞うことはやめて
神に許しを乞うことにする
そう決めると月は丸に戻っていた