つかの間の誓い 温泉郷
地震があるたび
いったん家具は
家の外に出される
アテネでは
そういう習慣があった
この家のアームチェアも2脚
地震の後 外に出された
1脚は背もたれの高い木製の硬いチェア
1脚は背もたれの低い布製の柔らかいチェア
少しだけ雲のある
青空の下
向かい合っている
背景には荒涼とした山脈
遠くには廃墟となった神殿
部屋の中では
離れ離れだったが
はじめて向かい合わせ
今は 家人も見ていない
ほら あなたの眼が見えます
はい あなたの眼も見えます
ほら あなたの声が聞こえます
はい あなたの声も聞こえます
ああ やっとですね…
はい やっとですね…
後ろに置かれた
背の高い黒い箪笥が神父のように
2脚を見守り 冷静に促した
あなたたちをずっと見てきました
わかっています
さあ 時間がありません
部屋に収納される前に
急いで誓いの言葉を
乾いた大地と
澄んだ青空と
見捨てられた神殿が
あなたたちの証人です
(注釈)デ・キリコ ≪谷間の家具≫ 1927年
トレント・エ・ロヴェレート近現代美術館より