評、9/13~9/16、ご投稿分。 島 秀生
能登半島地震のあとの、この豪雨災害は、気の毒すぎます。
一番大切なものだけ仮設住宅に運んだだろうに、それが床上浸水でやられたり
買い直したばかりの車もダメになり、
生業の機械や設備も整えて再開したところだろうに、再度やられたり、
今回は地震を逃れた農地も、軒並みアウトで。
海には流木や土砂が流れ出てるので、漁業もまた当分ダメでしょう。
本当に気の毒すぎます。
立ち直る元気をどこから絞り出せばいいのか、想像もつきません。
心よりお見舞いを申し上げます。
●秋さやかさん「青」
わあー、ステキなお話ですね。なんか、キュンとくるぞ。
私も乱視起因の遠近がわからなくなる苦手な色があるのだけど、なんにせよ、自分の弱点をあなたの愛情がカバーしてくれる、共に歩んでいける世界が美しいという愛情表現が、とてもステキです。
まずもって人生を俯瞰するところまで話が来てるのがいい。
また、冒頭、
空が濃くなってきたから
もう海が近いね
の言葉が、私もちょっと不思議に思った謎かけのような言葉で、だからこそインパクトもあり、その理由が知りたくて、引き込まれるように先を読み進みます。
まあ、本人の言は、堂々巡りなものでしたが、これを契機に作者の色弱の話に派生していきます。子どもの頃、メガネ屋に行って、でも買わなかった苦い思い出がある。
しかしながら今、色弱でも困らない理由として、あなたがいる。愛情の話へと繋がっていきます。
また、ラストの3連もキレイですよね。
絵筆からこぼれる
一滴のように
あなたの詩情が
わたしの空を
青く深めてゆく
色彩弱く見えている作者の視界は、あなたの言葉(詩情)によって、鮮やかな色に変えられてゆきます。
そして、この終盤において「空」は、今見えている空だけでなく、二人の人生の空もまた、そのようであるという暗示に富んでいる。両方を比喩した、とても美しい表現だと思います。
名作&代表作入りを。
●温泉郷さん「ノコンギク」
ノコンギクは、いわゆる「野菊」(俗称)の中でも代表的なものですね。漢字を当てるなら、野菊の紺色(ホントは紫)のものってことで「野紺菊」の漢字が当てられますが、一般的にカタカナなので、この詩においてもカタカナでいいと思います。地下茎を伸ばして増えていったということなので、まさにそれでしょうね。キク科ですが、キク属でなくシオン(アスター)属になります。
紫色ですが園芸店で見られるアズマギクともまた違う種なんです。
ノコンギクは、日本全国で見られる野生化したものですから、これを鉢植えにされる方は珍しい。このこと一つを取ってみても、この花に何か思い入れがあるのだろうと想像できます。もしかしたら、その昔話と繋がっているのか、あるいは日本に戻ってきた当初に、印象深く残っているものなのかもしれません。共通項としての「ちぎられて、捨てられて」のキーの役割を担っているものではありますが、この花自体にまつわるエピソードや好きな理由もなにかありそうに思えて、ちょっと気になるところではあります。
引っ越しの折に、花の鉢を周囲の人にもらってもらったというのは、とても丁寧な行動ですね。ペットでさえ、保健所に渡しちゃう人が多い昨今ですから。
「昔話」については、なにかありそうな伏線を張られてたので、何が来るのだろうと思いながら読み進みましたが、ラスト2連で待ち受けていたのは、よもやの話でした。
そもそも日本国内での生活がとても貧しかったから、新天地を求めて大陸に渡った人が多いのです。戦争終盤に至るまでは、あちらでの生活の方が豊かだったと話す人も多いです。そのせいか、この世代の人には、あちらの地で生まれたという日本人も、少なからずおられます。
しかしながら、戦争に負けると状況は一変。現地の人の態度も豹変し、命からがら逃げ出すことになります。捕まったら命はない、という状況の中、すし詰め状態で引き揚げ船に乗り込むことになります。終連の記憶は、その時の出来事なのでありましょう。
犠牲になったのは民間人かしら? 逃げてるさなかに見たのかしら? よもや兄弟じゃないよね? 終連、おおよその想像はつくものの、どういった人とか、どういった状況下で見たものとか、あと一歩の示唆があるとありがたいです。読者としては、想像しうる範囲が広すぎる状態にあるので、もう少し想像の範囲を絞れる形で提示してもらえるとベターです。
まあ、ちょっと欲張って希望を出しましたが、まずもってOKな詩ですよ。おまけ名作くらいで。
●荒木章太郎さん「選択の痕」
おもしろい作品ですね。「選択」と「洗濯」を重ねているところは無論わかりますが、階段のしみの意味するところまで、変化していくところがおもしろい。
歯をくいしばる階段の上り下りは、実生活の一部でもあるでしょうが、高層階から見下ろす君との構図は、生活の在りようを高低で比喩するかのようでもあります。
また、
君のためを思うという
悪意のようなシミったれた精神を
ずっと拒否してきたことが、「君に甘える」ということに対しても、素直になれなくしているというところは、気持ちがよくわかるところであります。
秀作あげましょう。だいぶ実力がアップしてきましたね。
この詩、よくがんばって書いてくれてるんですけどね。
一点いえば、3連で、3択があることを書いてられるんだと思うんですが、その3択と、その後の連との関係性がわかりにくい。
「選択ができない」ことから派生してる「洗濯」の話は4~6連までで終わるべきと思います。6連でいちおうオチがついてるので、そこまででよく、
終連では、「洗濯」は抜きにして、3択のうちの、どれと絡んで着地する方向になったのか、そこがわかるように書いたほうが良い。話を元に戻した方が良いです。
現状は、話が散逸していってるように見えます。現状の終連であれば、終連はカットして、その前の連で終わった方がよいです。その方が話にまとまりが出るので。
そのあたり一考してみて下さい。終連の処理だけ直したら、もう一段上がれる作になると思います。
●上田一眞さん「赤い花」
基本的に、産毛があるやつは違うはずなんですけどね。アヘンを作るケシは産毛がないらしいです。匂いもイヤな匂い系らしい。ただ、アヘンとは違う成分の麻薬でもって禁止されてるハカマオニゲシというのがあって、これは産毛もあり、深紅の大きな花を咲かせるらしいので、これの公算はなきにしもあらずです。正確なところは現物を見てみないと識別は難しい。まあ、警察からでなく(←故意にハッタリを言うことアリ)、市役所からの回答ということであれば、確かだと思います。
警察は、人を疑うのが商売ですし、先入観の塊みたいな人も多いので、不快なことを言われるケースがままあります(テレビドラマとはだいぶ違います)。お父さんが怒ったのもわかる。私も怒り心頭になったことがあるので、よーーくわかる。
それにしても、土地をさかのぼれば、いろいろな想像ができるものですね。徳山藩の医療用まで行くと、感慨深くさえあります。
また、父は知らなくとも、そもそも土地を取得し、煎餅屋をしていた祖父ならば、研究熱心な人だったので、何か知っているかもしれないとの想像も、おもしろいです。
なんというか、このあたり、時間軸をタイムトラベルをしてるみたいなところがおもしろかったです。
これ、隣が駐在所ということなので、「わざわざ警察が来た」感がないんですが、これ、離れた駐在所から、わざわざ警察が調べに来たということであれば、もっとおおごとになってたかもしれないですね。こちらの感覚としてね。
お父さんがお見事なんですが、わりとあっさり終わったところが、あっけないと言えばあっけないのです。駐在さんの出で立ちや表情など、最初の来た時の様子を、もし書けたら、もうちょい追加できるといいですね。
後半、いろんな人が登場したり、想像を大きくしたりして、楽しく読ませてもらいました。前半があっさり終わっていただけに、後半の料理の腕で引き上げた感じですね。
おまけ名作にしましょう。
●松本福広さん「ペットボトル・ヒューマン」
日常から始まり、非日常へ。大量生産、大量消費のペットボトル・シューマンの製造法が語られ、利用法やメリットが語られる。
以上を述べた上で、終盤は、それでも人間でなければできないことが語られます。全体ストーリーは申し分ないです。たいへんおもしろいお話です。
ちょい気になったのはディティールだけです。
3行目は、
どれも、もう一本も入んないよと言いたげな窮屈な声をあげていた。
これでいいと思いますよ。「言葉」でなくても、キュウキュウいう擬音が悲鳴に聞こえるってことで、こういう表現でいいと思いますね。
ここを始め、文体がもちょっと美文になるとベターです。
あと2連の製造方法のところで、ちょっと引っかかるのが、フレーク状って、チップ状のことだと思うのだけど、「減量化」っていうと、形のまま圧縮するイメージなんで、なんか文の前後でイメージが合わない感じがするのと、
「個体の能力が決まる」と言いながら、マーブル状という見た目の話で終了してるのがちょっと引っかかる。
不純物がなく、純度の高い透明の方が、命令をきく精度が上がるとか、あるいは力が強くなるとか、そういう話に着地して欲しい気がする。
要は、ここいいアイデアなので、丁寧に行きましょう。
現状、秀作プラスを。以上の点を一考してもらったら、もう一段上がれる作になると思います。