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スレッドNo.4609

感想と評 9/20~9/23 ご投稿分 三浦志郎 9/30

1 埼玉のさっちゃんさん 「食とは」 9/20

「手が込んでいるのに/そう見せない工夫が/随所にちりばめられている/料理下手な私にも作れそうな/錯覚を感じる」

いきなり引用しましたが、余人は知らず、僕はこの詩行をもって佳作と致します。いろいろな世界・分野でプロフェッショナルな人々がいますが、彼らの神髄はまさに上記にあると思うわけです。恐ろしく複雑なことを整理整頓して、粒立ちを良くして、シンプルに表現する。「あ、僕にも(わたしにも)できそうだな」と思って、真似してやってみる。額面似る。ても、何かが違う。その何かが彼らの領域なのでしょう。評者ミウラは詩と音楽において、そんな体験をいやというほどしております(笑)。冒頭フレーズに話を戻します。そんな事情を、この詩は料理場面においてそのフレーズによって見事に言い当てています。大変重要な気づきです。その気づきから詩は料理から食、その背景にある農業にまで意識は広がっていきます。農業の重要さと感謝もある意味、気づきでしょう。後半がちょっと急ぎ過ぎの観がありますが、まあ、いいでしょう。
さっちゃんさんには今後、自分固有の、自分なりの表現スキルを研究して頂きたいと思います。


2 松本福広さん 「立体駐車場と私の気持ち」 9/20

駐車場が舞台の詩とは珍しい。確かにタイミングと運ってありますよね。難航するとあまりかっこいいものではない。そんな駐車事情がDNAや社会や人生の縮図と絡ませながら明かされます。
3連はなかなかユニークな連想で面白いですね。5連以降に注目しましょう。自分を駐車場に喩えて、「満車状態=いろんな意味で余裕のない私」だけど、何とか頑張って「君」の居場所を確保する。だから傍にいて欲しい、ずっと居て欲しい、そんな願いでしょう。大汗かいて駐車しながら、各種要素をまじえて一生懸命書いているのは、つまるところ、「君」の為。いつでも自分の隣にいてくれること、それに尽きるわけです。そこが何とも微笑ましいです。もしも、これを恋愛詩とするならば、大変ユニークな横顔を持った作品ということです。ユニークと努力の甘め佳作を。


3 上田一眞さん 「北浦の土用波」 9/21

向津具半島も津黄港もクロ(メジナ)を調べ終わりました。しかし「むかつく」半島とは冗談のようで面白い名前ですねー。詩を読むと、釣りに慣れたベテランぶりが素人の僕にも充分伝わってきます。読みどころはやはり「小一時間ほど経った~」以降、土用波のシーンですね。これほどの高波はそう多くないそうなので、よほど運が悪かったのでしょうか。いや、運が良かったから命が助かったとは言えそうです。せっかくの釣り竿は残念でしたが―。よく波にさらわれたというケースも聞くので、お気をつけて。どちらかというとエッセイ寄りの詩といった印象ですね。佳作半歩前で。

アフターアワーズ。
終行「這々の体」(ほうほうのてい)―この語句・表現は気に入りました。なかなか書けるものじゃ
ありません。人生や読書、ベテランの味わいですね。


4 荒木章太郎さん 「ただいま」 9/21

今回は比較的短い詩です。これだけだと判然としないものが多いのですが、「人を助ける仕事に就いた」を額面通りに受け取るとするならば、例えば医師やそれに準ずる人々の思いがこの詩に近いかもしれないと思うわけです。そして視線は自己から他者へと転じている。生死について考えている気がする。そして「ただいま~おかえり」が単に挨拶に留まらず、自己の内面に深く関わって来る気がしています。「助かる~助からない」を受けての「失ったもの~生きているもの」への鎮魂と受け入れのような。両者への眼差しを感じました。静かな詩です。ただ今回、ちょっと地味で損した感無きにしもあらず、で佳作半歩前を。


5 秋乃 夕陽さん 「水浴び」 9/22

よく都市の郊外などで市民農園のようなものを見かけますが、背景はそこでのイベントのようなものでしょうか。職員や参加者が作業をして、殊に職員さんは水撒きを通り越して、水浴びといった感じなのでしょう。市の職員さんでしょうか。暑い中とはいえ、濡れて大変だったのでしょう。作品的にはもう少しトピックスが欲しいところです。例えば、どんなものを栽培しているかとか、あと「唐突に現れた客」が手つかずなので、この客はどうしたとか、職員との絡みとか、肉付けしてやるといいですね。フィクションでも構わないのです。佳作一歩前で。


6 酉果らどんさん 「雨よ止め」 9/23  初めてのかたなので、今回感想のみ書かせて頂きます。

よろしくお願いします。さっそくですが、1連と3連は「DO NOT」とも「~ING」とも取れるのです。
しかも2連と4連は、どちらにも対応可能になっています。読み手はどちらか分からず読んできて、5連「水滴が当たり」とタイトルを勘案して、ここで初めて(ああ、降ってるんだな)とわかります。このあたり、書き方として少し工夫が欲しいと思いました。5連以降は感性を働かせての筆致ですね。このあたり、どういう意図があるかは不明ですが、なかなかすごい情景ではあります。また、書いてみてください。


7 静間安夫さん 「もう羽ばたかないわたしのこころよ」 9/23

この詩は静間さんのものであると同時に、僕の課題でもあります。60代~70代の人々が多少なりとも思うところです。この詩はまず二元論で出発します。すなわち若い頃の精神の弾力と溌剌。それと老いた今の精神のダルなありよう。非常にオーソドックスな展開でいいと思います。
詩は「もう一度/はばたくこころを/とりもどせるだろうか?」を契機として徐々に転調していきます。今を生きる方策へ、です。僕の感触では、それ以降の詩行において何がしかのきっかけを掴んでいるようにお見受けしました。推測ですが昔と今を比較するからいけないことに気づいたようです。文中「これまでと違う何かで」「別の何かを見出す」そして「まだわからない~」以降の連にそれを感じます。端的に言えば「昔は昔、今は今!」「発想の転換」といったところでしょうか。後はそれを手掛かりに日常に当てはめて行けばいい、そんな風に感じています。考えさせられ参考になりました。佳作です。

アフターアワーズ。
この詩を読んで、感じたことをキーワード的に書いてみます。
「自由に、慌てず騒がず、静かにゆっくり、余計なことはしない、好きなことをやる」こんな感じですかねー。


8 ベルさん 「片思い」 9/23

古い言葉で恐縮ですが「友だち以上、恋人未満」というのがありました。(うまいこと、言うなあ)といった気持ちと、この詩にけっこう関わっているのではないか、と思い書きました。文中の通り「恋愛と紙一重」なんですが、僕は男女の友情は成り立つと強く思ってます。それは置いといて(笑)、
この詩は、どうも、主人公がホントは「未満も紙一重も」越えて行きたいと思っているように僕には思えます。でも越えられない。その傍証はこの詩からいくつも取れるのです。まずタイトル、「ほんのちょっと距離を置く」「ひとりで歩こう/自分に言い聞かせる」、終連。そこから引き出されるこの詩のフィーリングは「しょんぼり、やるせない、気後れ、→あきらめ」といったものでしょうか。特に終連には、言いようのない思いがよく表れています。短い詩ながらタイトルの思いがよく表出されています。よって佳作、と。

アフターアワーズ。
気後れや遠慮だとすると、相手も同じように思っているとするならば、これはもったいない話ですね。
「譲り合い」と言う事がよく言われますが、双方が譲り合うと事は運びません。この詩の主人公さんに、ベルさんから「ひと当て、当ててみれば?」と言ってやってくださいな(笑)。



評のおわりに。

今も「MY DEAR」の皆伝者にして同人のKazu.さんのことです。
脳腫瘍と失語症を抱えながらの中日詩賞奨励賞を受賞され、そして今回、新聞取材を受けられた
ことに深く感動しております。ただでさえ詩を作るのはたやすいことではないところ、ハンディキャップを持ちながらの
詩作~受賞は、病と闘いながらの努力の結晶に他なりません。「偉大」といった形容が浮かんで参ります。「不撓不屈の詩人」
と言ってもいいでしょう。あらためて敬意を表したいと存じます。そしてお大事に。ゆっくりで構いません、今後もご健筆を。

                                                   三浦志郎

編集・削除(編集済: 2024年09月30日 12:07)

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