執着 津田古星
いつか
おじいさんとおばあさんになったら
あなたに会いたいと
二十四歳の私は思った
時という濾紙が わだかまりを濾過して
透明な友情だけがビーカーに流れ落ちれば
笑顔で会えるだろうと
もう十分おばあさんになったから
勇気をふり絞って
あなたの安否を尋ねてみた
大病をしたあなたが生きていて
家族を持てたと知った
一人一人が電話を持ち
瞬時にメールが送れる時代まで生きるなど
四十年前の私達は 想像もしなかった
電話の声も話し方も 昔のままだったけれど
互いに家族があるのだから
青春の日の感情など 話題にはできない
それでも私の電話と手紙に
あなたはペンを執り返事を書き
慣れないメールも打った
あなたは昔と同じに
節度をもって礼儀正しく熱心に
遅れがちに返信をしてきた
そのうち私は思いがけず
自分の認めたくないものに
コツンと突き当たった
メールを打てば返事を待つことに疲れた
長い時を経ても
濾紙の上に残るものは
淡い恋ではなく
あなたに褒められたいという欲だったから
おじいさんとおばあさんになっても
会うことは叶わない