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スレッドNo.4628

あずさ号の恐竜  温泉郷

特急あずさ号
塩尻から乗って
甲府を過ぎたあたり
出張の疲れで
ぼんやり
山の稜線を見ていると
山頂付近に
少し変わった樹影
二本の高い樹と低い樹が
ゆるやかに 登っている
ように見えた

確かに
恐竜の親子だ
母の後を子どもが追っている
もう少しで
山頂に届きそうだ

夕陽の影の
地味な山の稜線
保護色でうまく隠れ
こっそりと
目立たないように
頂を目指している

ああ ごめんね
僕が見てしまったら
親子は動かなくなった

あずさ号は
緩いカーブに入り
遠ざかる山の稜線
見る角度が変わったら
親子は ただの樹影に
固まってしまった

更に列車が進み
振り返ると
完全に他の樹と
見分けがつかなくなった

今の時代にも
ひっそりと
生きのびていた恐竜は
人に見られると
樹木に戻るしかない

また 何年も
何十年も待って
姿を取り戻し
山頂を目指すのだろう

僕はもう
あの親子を
見ることはないだろう
ほかの誰にも
見つからないことを
ただ 祈るだけだ

いつの日か
山頂に上った
親子の恐竜の
歓喜の咆哮が
人知れず響きわたることを
ただ 願うだけだ

編集・削除(編集済: 2024年10月02日 18:30)

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