岬にて 上田一眞
♫時には母のない子のように *1
カルメン・マキの歌声が
耳に響く
異郷の空
小糠雨がそぼ降るなか
とぼろ とぼろ と
岬の浜辺をひとり歩いた
砂に残った一筋の足跡が雨に濡れる
雨音はない
♫母のない子になったなら
誰にも愛を語れない
天涯に去った母の
受難を噛みしめ
あなたの息子はここにいますと
涙雨に濡れながら
手を伸ばす
届かぬわが手
わが想い
母は遠きところへ行き賜う
あなたの元へ
行きたいのに
あなたへの愛を
語りたいのに
雨粒が次第に重くなり
砂地に 深く突き刺さる
無言の雨に峻拒され
ずぶ濡れになりながら 岬にて
滴る雨を 振り払う
渦巻く想念
母の声を思い出せぬまま
偲ぶ歌を 口ずさむ
♫時には母のない子のように
大きな声で 叫んでみたい
*1 時には母のない子のように 寺山修司作