千客万来軒 温泉郷
駅へ行く途中の
中華料理の千客万来軒
向かいには
新しい中華料理店と焼き肉店
少し行った大通りの交差点には
インド料理店が2店舗
ランチの激戦地なのに
赤い暖簾には埃
ディスプレイウインドーの
ラーメンのサンプルは薄汚れ
すりガラスもきたない
入ってもいいよ
入らなくてもいいよ
ランチに出遅れ
仕方なく入った
店内の空気は動かない
脚部が錆びた粗末なテーブル
2人だけ
黙って 放心したように
ゆっくりと
何かを食べていた
日替わり定食を注文
店員は調理場に注文を通すと
ボロボロの雑誌を読み始める
調理場から聞こえてくる
炒めものの音の弱弱しさ
いつ食べ終えたのだろう
店を出て腕時計をみると
30分も経っていなかったのに
午睡後のように
体中の力が抜けている
何もやる気がしない
でも
ああ いい気分だ
仕事なんてどうでもいい……
その後も
この店の前をよく通る
入ってはならぬ
ここは危ない場所なのだ
と思いつつ
どうしても
すりガラスの隙間から
店の中を覗いてしまう
昼飯時 いつ見ても
誰かが1人、2人
放心したように
ゆっくりと
何かを食べている
入ってもいいよ
入らなくてもいいよ
ああ わたしは
きっと また入ってしまう