バラストの手 松本福広
海を泳ぐ船からは
油膜をはったようなマーブル柄の腕が
船の中に入って行ったり
船から出て行ったりする
移動中だけは静かに眠っている
海の中は生命の構図が
静謐に秩序をもって描かれている
その構図を描いたのは
誰なのかは知らないけれど
それでも、その構図は
サグラダ・ファミリアのように
完成図がないから
海の生き物たちが好きに描ける
自由が残っていた
微細で有限な自由だけれど
それでも海で
シンフォニーを奏で
楽しむよう作られていた
バラストの手は行った先で
無邪気にそこの生き物に
反応を気にせず溢れるままに語りだす
ここになかったものを見せてあげる
あそこにはこんなものがあるんだ
それが相手の見たかったものかは
知らないけれど……
その場所の構図を無造作に攪拌しているのを
バラストの手は知らない
※ご存じかもしれませんが……
バラスト水について分かりやすい解説のページ
SHIP for Everyone船の世界を知って楽しむための情報サイトより
https://www.ship4everyone.com/archives/1162#%E3%83%90%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88%E6%B0%B4%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F