知の檻と逃走線 荒木章太郎
カビの生えたような歴史を
もう一度散策した
蜘蛛の巣を払うように
かき分けたら
原木椎茸の
ほだ場を見つけた
「なんて立派で豊醇な知性か」
身の丈で思惟すると
毒性を持つ空想を恐れることなく
我が内に取り込むことができた
権力の構造は鉄の壁ではなく
複雑に張り巡らされた
蜘蛛の糸が、あたかも
鉄格子の檻となり
俺の胃袋は捕らえられたままであった
昨日まで嫉妬し、告げ口し合い
分け隔てた者たちと
すき焼きを囲もう
昨日分け与えられた牛肉と
新鮮な卵がある
収穫した椎茸がある
感染を恐れず
対話しながら
鍋をつつこう
近代は潔癖化し
現代は進化し、優しさで
多様性を泳がせている
俺たちは体を気遣われながら
統治されているのだ
椎茸は関係ないのだ
この世には、思わせぶりな
椎茸のようなものが
色々と仕込まれていて
俺たちの不安を煽り浪費させて
支配されているのだ
この社会に
片付けられないためにも
舌鼓を打ちながら
地図を広げて
逃走線を引こう