MENU
938,828

スレッドNo.4701

2分 温泉郷

地下鉄の一駅 わずか2分
ドア近くに立つ
無意識のガラス越しに
汚れたパイプの走る黒い凸凹の壁
朝見た憂鬱な国際映像が重なり
右手の指で
ガラスを叩いてしまう
練習中のアルペジオで
繰り返し 繰り返し

ん?
右側のベビーカーの男の子と目があう
2歳くらいかな
こちらをみて喜んでいる
こんな瞳はきっと
世界共通だね

もう一度 アルペジオ
男の子は
喜んで笑顔を向けてくれる

お母さんは?
ガラス越しにそっとみると
スマホをいじっている

もういちど
今度はやや長めに
アルペジオの繰り返し
男の子は
左手に持っていた
赤いマグカップを揺らし始める
僕の手をじっと見ている

じゃあ
これはどう?

こんどは和音で
ガラスをたたいてみる
マグカップの揺れが止まった
うーん
あまり反応はよくないね

アルペジオの
指の動きがお気に入りだ
彼の眼にはどう映っているのだろう
何かのクモのような
生き物にでも見えているのかな

電車が駅に近づくまで
男の子のマグカップと
セッションを楽しんで
駅に着く前に
小さく お別れの挨拶

ドアが開く直前
男の子は
はじめて
アーという声を出して
小さな手を
こちらに伸ばした
うーん
うれしいけど
タッチは
お母さんに叱られるかもね

もう一度
内緒の小さなバイバイをして
地下鉄を降りた

地下から階段で地上に出ると
染みも境目もない青空が
どこまでも延びている
街路樹のユリノキの葉に
朝日が反射して
秋の微風に揺れている

君たちみんな 
何が何でも 大きくなれ

大きくなって
どこかで乗り合わせたら
また 一緒に
セッションをやろう

編集・削除(編集済: 2024年11月06日 18:38)

ロケットBBS

Page Top