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スレッドNo.4702

拾う  人と庸

拾う

拾という漢字のおぼえ方

「手を合わせて拾う」

なんという うつくしい行為だろう

手を 合わせるように
そのものへゆっくりと差し出し
両手で包み込むように拾い上げる

祈りのようなやさしい光景を
あたらしい漢字を習う少年は
強くひいた鉛筆の線といっしょに
ノートにしまい込んだ


青年期
拾いたいものがたくさん増えた

風景画の額縁をこえた場所
あらゆるものの住処をさぐる公式
触れる人によって幾通りにも色を変える
 言(こと)という葉
なにかを拾おうとする
 だれかの心

目に映るすべてに敬意を込めて
どれも両手で拾い上げたかった
たいていは形を残さなかったけれど
だれかに分けられるくらいは満ちていた

かがんだ背中に
時につめたい風を感じても


壮年期
追われるように拾いつづけた

どんな場所でも呼吸するわざ
おおくのひとが持っている
 色も形もおなじもの
つめたい風に吹かれた記憶の
 ひとつひとつ
繕いすぎた自尊心

竜巻のようにめまぐるしい日常で
両手にひとつでは間に合わない
片手にひとつ
一度にふたつ拾おうとした

そのうち抱えきれなくなったので
前に拾ったものを手放した
だれかと分け合うこともせずに


中年期
片手で拾ったものを捨てきれずに
夕暮れの道を歩く

むかし拾ったものをもう一度拾おうか
それはいつでも
自分の足もとにあったのだが

通りかかる幾人かが指さして
(これはあなたのものではないですか?)
とたずねてくれるが
そのたびに
(いいえ、ちがいます)
とこたえてしまう

むかしのように拾えるだろうか
足もとなのに
手をのばせばはるかに遠い

道の反対側で
だれかに似ているようで似ていない少年が
手を 合わせるように
そのものへゆっくりと差し出し
両手で包み込むように拾い上げた

夕陽が照らし出す先はまだ見えない
道は半ばだ

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