解放の唇 荒木章太郎
迷彩の影に隠れ
欲望の光に晒されて
愛を貪っていた時代には見通せなかった
戦線を離脱してようやく分かる
分かち合えない赤い唇から
発せられる愛のことばは
軽やかに跳ね返り穏やかに険しさを包む
嫉妬や憧憬に侵されていた身体から
解放された目と耳だけで味わう
君の全てを
(人間が考える愛の形なんて、たかが知れている)
俺の愛は
ぎこちない光となり
屈折して君に届き
周りの時空をひん曲げた
君の愛は
よどみなく
公正で鋭い光を放ち
俺の背中を貫いてくる
清流と泥川
秩序と混沌
ぶつかり合い
砕けて散った
光の粒は
星なのか
蛍なのか
埃なのか
ただ輝いているだけの光に
意味を押し付けて
君との距離を測る
愛の形が違うだけで
神様の名を借りて
人は争うのだから
本当はそんな小さなものではないのだろう
神様が言っている愛とは
性別も正義も悪も越え
聖者さえも超えている
俺にはよく分からないが