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スレッドNo.4716

父の日記 津田古星

九十二歳で他界した父が
長い間日記をつけていたのを 知っていたので
私はそれを読んでみた
若い頃から何十年も欠かさずに
毎晩机に向かう姿を見ていたのだが
残されていたのは五年日記二冊のみ
父が七十歳から八十歳までで その後は無かった
八十七歳でアルツハイマー型認知症と診断されたが
その数年前から日記が書けなくなっていたのだろうか
その日にあったことが思い出せなくなっていたのかも知れない

父の日記は
農作業の内容 外出先 買った物 来客
家族の動向 贈答品のあれこれ
ごく普通のありふれた日常で
事実のみを記し 感情は一切書かれていない
達筆ではないし、度々誤字もあったが
内容を読み取るには困らなかった

日々の記録は
父がいかに 家族 友人 隣人のために
時間と手間を惜しまずに働いたかを表していた
妻の通院や外出の送迎 時には孫を学校に送り
親戚の病気見舞い 自治会の仕事 老人会の行事
すべて父は自分で車を運転して行く
手ずからとろろ汁を作ると
妻の姪に鍋ごと届けることもあった
お寺に嫁ぎ障害を持った子を育てている姪が
忙しいだろうと察するからだ

ただひたすらに野良に生き
名も地位も求めず
日々の暮らしを丁寧に紡いだ父は
人のために
自分の時間と労力を使う事こそが
愛なのだということを
日記で教えてくれた

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