空っぽの鳥かご 温泉郷
近所の老夫婦が営む
小さなおもちゃ屋
子どものおもちゃを
たまに買いに行くと
おばあさんがおまけをくれた
懐かしい店だ
その軒先に
釣ってある鳥かごは
もう しばらく
空っぽ
ここには かつて
灰色のフクロウの
縫いぐるみがいた
電池を入れておくと
時折
鳴き声を発して
通りがかりの人を
おどかしていたやつだった
僕も一度驚かされて
おばあさんに
笑われたことがある
3年ほど前
よく店に来ていた
近所の女の子が
このフクロウの
縫いぐるみを買ってもらった
お兄ちゃんをびっくりさせるんだ!
うれしそうに
連れて帰ってから
しばらくして
事故で亡くなった……
女の子の家族は
引っ越していった
おばあさんは
心ない客から
「フクロウは死の象徴だよ」
と聞かされ
そんなことあるかいって
それから 必ずフクロウが
いつか帰ってくると
軒先に
空っぽのかごを釣り続ける
最初のうちは
それで
よく喧嘩になったと
おじいさんから聞いた
いまでは
何も言わなくなった
最近では
おばあさんは
かごの中に
フクロウが見える日がある
そんなとき
「ほら いるだろ」
と嬉しそうにつぶやく
おじいさんは
それを聞くと
少し 元気がなくなる
おじいさんには
まだ フクロウが見えない
自分にもフクロウが
見える日が来ると信じて
空っぽの鳥かごを
釣り続ける