蟹と燈台 上田一眞
砂浜に穿つ 小さな穴
秋の光が差し込んでいる
おじょめ蟹は 目覚め *1
砂穴から天空を見上げた
陽光に照らされ きらきら光る
白い燈台が見える
なんという大きさだ
なんという美しさだ
おじょめ蟹は
自分のハサミを見て独りごちた
ちっぽけだなあ
みじめだなあ…
燈台がおじょめ蟹に囁いた
あのな
滄海の一粟(いちぞく)
わたしだってこの広大な海原では
ちっぽけなもんだ
でもこんな詩もあるんだよ
あなたの 世界は
あなたに 左右されて
あなた自身でできている
(後略) *2
ここ夢ヶ崎の地にわたし達は生まれた *3
蟹と燈台
孤独の身
見えてるものはまるで違うけど
自分が見ているからこそ世界はあるんだ
哲学者デカルトは
こう言ったんだよ
我思う故に我あり
*1 おじょめ蟹 砂蟹の地元名
*2 三角みず紀作「ふたりの路線図」より
*3 夢ヶ崎 角島燈台の所在地