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スレッドNo.4738

Copy  秋乃 夕陽

「本当にお母さんと声がそっくりね」
電話口に出てしばらく話をしてから
母の知り合いである女性にそう言われた
思わず顔を顰める

嫌なわけじゃない
ただ別人格であるはずの母とそっくりだと言われて
複雑な気分となっただけ

「他の方もよくおっしゃいます」
苦笑いを噛み締めながら
声はごく普通のトーンで応対する
相手は軽く笑いながら要件を伝え
それから電話を切った
受話器を置きながら
私ってそんなに似てるかしらと首を傾げる

『後ろ姿がそっくりでお母さんかと思った!』
そういえば帰郷してきた弟も驚いた顔でそう言った
顔を合わせるたび【この半端もんが】と
問答無用で行動も人格も全て否定し
攻撃するような弟だった
賃貸マンションの延滞料を
連帯保証人である私に払わせて
現在は行方不明になっている

私は振り払うように少し首を左右に振る
 バカバカしい
 私が母と似てるなんて
 母のほうは自分もまだまだ若いと喜ぶだろうけど

今年七十六歳の母は今日も出掛けている
買い物代行と自宅近くの診療所での掃除のバイトを
掛け持ちし
趣味である合唱団も二つ掛け持ちして
歌の練習をしに行っている
(いつも私だけが忙しい
どうして高齢の私が働かなきゃいけないの)
愚痴を吐き出しては私に当たり散らし
感情が昂まり過ぎると
手短にある物をこちらに投げつけたりもした
職場での過度なパワハラで休職して家にいる私は
母曰く「給料もろくに稼がない者」として
ただひたすら耐えるしかない

私には身の置き場がない
職場でも課内で嘲りの言葉や一斉無視
挙句は重要な仕事は与えず軽作業しか与えないなど
酷い仕打ちをされ続けてきた
家では働かぬ物食うべからずで厄介者扱い
そんな私が母とそっくりなわけがないのだ

私の口からは全身から抜け出すようなため息が
まるで熱い塊のように飛び出した
まるで怒りのような熱風が
ハアアという激しい音とともに渦巻く
目の前はチカチカと赤や青に点滅する
徐々に自分の体が縮んでゆくのを感じる

やがて私の目の前は消灯されて

丸い顔に赤い鼻のコピーロボットだけがポツネンと
冷たいフローリングの床に横たわっていた

編集・削除(編集済: 2024年11月05日 00:29)

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