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スレッドNo.4753

醜い薔薇の生まれ方 佐々木礫

彼は自室で、孤独な哲学者の本を読み感化され、この世でたった一人でも、世界の醜さを愛したいと願った。
彼は住宅街で見知らぬ人に道を譲り、駅前で喫煙所の場所を聞かれれば案内し、ショッピングモールでは老人が通る扉を押さえた。
その老人が、
「邪魔や」
と言った。
はっと目が覚めた気がして、彼は初めて自身の醜さに目を向けた。それからは、粗暴な人を遠ざけて、優しい人に恨みを抱き、有名人に唾を吐き、風俗嬢を軽蔑し、お金持ちになろうと思った。
それから数年が経った頃、彼は美しい世界を愛そうと、庭に小さな薔薇園を作った。伸ばした手に棘が刺さったから、その棘を全てこそぎ落として、その一輪を花瓶に詰めた。

編集・削除(編集済: 2024年11月05日 13:47)

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