八歳と海 朝霧綾め
海に背をむけて
浜辺の砂をにぎって遊んでいた
「こわくないよ」と
最初は誘ってきたお父さんも
すぐあきらめて
オレンジのサーフボードを抱えながら
お城の作り方を教えてくれた
わたしがうなずくと
完成も見ずに
サーフィンしに行った
遠くの海へ
誰にも話しかけられないように
いっしょうけんめいなふりをして
砂をかき集め
お城をつくった
砂は生きていないからいいな
魚も海藻も
生きているものは気持ちわるい
てっぺんに飾る石を集めるために
周りを歩く
「3-2」と書かれた
水着のゼッケンが見えないように、うつむきながら
わたしは背がひくいから
こうしていれば一年生にだってみえる
わたしよりずっとちいさい子のはしゃぎ声が
海から聞こえる
そのたびに下を向く
ピンクのゴーグルの女の子
わたしと同じくらいの子が
こっちを見ていることに気づいた
ゴーグルの反射がピカピカこわい
今度は上を向いた
「わたしはカモメがめずらしいから
空をみています」
そう心の中で言いながら
走ってにげた
三年生なのに泳げない
三年生なのに水がこわい
プールの授業で
「ふしうきをしてから立つ(5秒間)」ができないのはわたしだけ
一日海に行ったくらいじゃ
なにも変わらないのに
三年生なのに泳げない
三年生なのに水がこわい
白いきれいな石を六つ拾って
頂上に
ぽとぽと落として
お城に飾る
お母さんのかばんからスマホを出して
てきとうにいじって
完成したお城の写真をとった
わたしもいっしょに写るのは
ちょっと難しいみたいだったから
逆光の砂山写真一枚で終わりにした
そして、波や誰かにこわされるまえに
自分の足で蹴ってこわした
つくるよりこわす方が
ずっと楽しかった
パラソルを一緒にたたむとき
「つかれたでしょう?」
なんてお母さんが言って
「まあね」と答えた
ほんとはもっとつかれたかった
お父さんが運転席
お母さんが助手席
全然ぬれていない水着で
わたしは後ろに乗った
ちっとも眠くないのに
話すのがめんどくさい
目をつぶって、トンとわざと音をたて、
車の窓によりかかれば
「やっぱりつかれてたんだよ、寝ちゃった」と
大人たちのくすくす笑う声