焚き火 上田一眞
小鳥が囀る森の中に深くわけ入り
「なば」を狩って *1
焚き火で焼く
小枝が燃え
パチパチとはぜる音
それは
森の静かな宴のようにも聞こえる
焚き火が燃えあがり
火舌がゆらゆらと揺れる
赤く透き通った焔(ほむら)を見つめると
辛い過去の記憶が
まなこから剥がれ落ち
露わとなる
「なば」がほどよく焼け
口に放り込むと
苦みの効いた味がする
ああ これは修羅の味だ
再び口腔に現れた
〈うつ〉という名の死神が
私の肩を叩く
こっちにおいで
まだ早い
いや そんなことはない
楽になるよ
おかしな問答だ
ふと思う
人生最後の晩餐に
「なば」は美味いのだろうか
不味いのか
燃え落ちた焚き木を
灰の中でかき混ぜ
食べかけの「なば」を見る
私は ある想念に囚われ
静かに
独りごちた…
*1 なば 茸の地方名