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スレッドNo.4807

妙香寺―吹奏楽発祥詩  三浦志郎 11/15

 吹奏楽という音楽ジャンル・バンド形態がある。小中学生から社会人まで、アマチュアにおいて盛んである。俗に「ブラスバンド、通称ブラバン」などというが、この言葉はあまり正確ではない。なぜなら「ブラス(brass)=真ちゅう=金管楽器」―つまり「金管楽器バンド」となる。しかし実際にはバンドの半分は木管楽器(woodwind)で成立しているからだ。まあ、硬いことはここまで。
ともかく「吹奏楽」である。これはもしかすると日本の西洋音楽演奏の基礎であり、きわめて重要な装置かもしれない。例えば高校生が吹奏楽部に居て卒業後のことである。もしも音楽を続けた場合、その人の好み・傾向に応じて、そのまま吹奏楽をやってもいいし、交響楽団も可能。ジャズに行く人もいるだろう(その場合、ビッグバンドジャズに行くケース多し)。ロックでもJ―POPでもいい。
要は吹奏楽では音楽の基礎が身につく。従って多くのジャンルに出ていくことができるのだ。基礎が手を振って人を応用へと送り出す。この吹奏楽というジャンル、その源流を辿ると軍楽隊の存在は欠かせない。さて、前置きが長すぎた。ご容赦を。ここまで書いて来たのは日本吹奏楽の起源を考えたいからなのだ。

*                  *

その嚆矢としてのペリー黒船来航
ペリーが初めて日本の土を踏んだと同様
西洋音楽も初めて上陸したと言っていい(諸説あり)
彼は軍楽隊を率い自らの威厳を誇示した
日米親善の宴でも演奏したことが記録にある


その十六年後
明治二年(一八六九年) 明治維新後の横浜
維新の時代作用だろう
薩摩藩士たちが大挙して横浜にやって来た

結果として
彼らが日本吹奏楽の始祖となる

尚武の気風ある薩摩人が
“やや軟弱な”音楽に取り組んだのは異風でおもしろい
それとも維新を推進した進取の血が騒いだか
ペリー来航や長崎の影響か

それとも外国商人から啓蒙されたか
当時 横浜には外国人商館が多く
西洋文化の窓口のようなところがあった
だが 彼らにしてみると 音楽への動機は
文化よりも軍事の要素が濃かっただろう

ここは横浜郊外 本牧山(ほんもくざん)妙香寺

その薩摩藩士が三十人ほど 寺で合宿しながら楽器演奏を学んだ
指導者はいた
イギリス陸軍軍楽隊長 ジョン・ウイリアム・フェントン
斯界では「日本吹奏楽の父」と呼ばれているようだ
その指導のもと 彼らは「伝習生」と呼ばれた

写真が残っている
制帽・制服を着け
喇叭(ラッパ)などを携えて整列している
みな若い 
まだ書生然としている
小太鼓や大太鼓をベルトで吊っている隊員が印象的だ
行進曲などを練習(伝習?)したのだろう
お世辞にも音楽的華やかさがあるとは言えない
雰囲気は楽団というよりどう見ても軍隊である
武器を楽器に持ち換えたと言ってもいい
それ自体は平和的で喜ばしいことだ
このようにして音楽は生まれた

「―楽団 ―バンド」
当時 何と呼ばれていたのだろうか
英字新聞では
「SATSUMA BAND」と紹介されたらしい
ともかく      
日本初の西洋音楽演奏集団と呼びたい
彼らは演奏技術を得て
将来の陸軍・海軍軍楽隊創設に貢献する
このようにして吹奏楽は発展した

*               *

ここは横浜郊外 本牧山(ほんもくざん)妙香寺

そして現在
世の常の寺だが
一風変わっているのは
「日本吹奏楽発祥の地」記念碑があることだ

先生に引率されて
中学・高校の吹奏楽部員がよくここを訪問するという
記念碑を前に先達を想い
来るべきコンクールの成果を祈るのだろう

彼ら学生は華やぎながらも一様に礼儀正しい
挨拶 受け答え 立ち振る舞い
音楽と共にそういったことも指導される
精神形成期にはあっていいものだ
吹奏楽草創期の気分が受け継がれている

私はこの音楽分野を離れてすでに久しい
だが
今を考えると
離れてはいても
想いは変わらない
当時への感謝が残っているのだ



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付記。

本作で触れた寺は国歌「君が代」誕生の地でもあるという。寺のすぐそばに石碑がある。
現在歌われる「君が代」は、実は二代目で、初代は薩摩藩士を指導したジョン・フェントンが作曲した。讃美歌調で日本には合わないというので、二代目が作られたという。毎年十月には、この寺で吹奏楽顕彰を兼ね、初代「君が代」の演奏会が開かれる。警察や自衛隊の音楽隊が行うそうだ。さらに個人趣味で書いてしまうと、戦中の軍楽隊員二人が戦後ジャズに転向し、日本を代表するビッグバンドジャズの両巨頭になった。宮間利之と原信夫である。

編集・削除(編集済: 2024年11月15日 19:57)

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