ありがとう 相野零次
ありがとう 声に出して呟いてみる
家族がいるから 小さな声で何度も
少しメロディーをつけて
ありがとう 同じように
これは言葉遊び 意味のない言葉遊び
意味のないことに意味をもたらすことのできる
物語のない言葉に始まりと終わりをもたらすことのできる
そんな詩人に僕はなりたい
もはや詩人という枠組みを超えて 超人となって 神となって
でもやはり最後は詩人として僕は戻ってきたい
ただいま みんな返ったよ? ただいま まだ起きてた?
なんて優しい言葉で囁きかけて
もう寝てる子もいるね 布団ちゃんとかけてあげないとね ごめんね もう騒がしくしないから
僕の部屋には一本の立派な木があって
クリスマスには飾り付けをしたりする 僕もこの木も生きている
この木があるかぎり僕はひとりぼっちじゃない
木は物理的には数メートルの高さしかないが実際は数十メートル、雲を突き抜けて、数百メートル、夜空を飛び越えて存在している
それは夢の話? 絵空事? たわごと?
そんなことどうでもいいんだ
僕がドナルドでもピーターパンでもそんなことどうだっていい
くまのプーさんの殺人鬼でもかまわないんだ
あれは笑っちゃったよ
僕はみんな……そして僕自身、に届けたいのは優しさと強さ。
優しさだけが欲しいと思ったこともあったけど、それだけじゃだめなんだ。優しさを守るための強さが必要なんだ。
それはなぜか? 悪い人がたくさんいるからだけどそれだけじゃない。悪い人のなかにほんとうの優しさがあったりするんだ。それは守らなくちゃいけない。やっつけるだけじゃだめなんだ。
そして僕が悪い人をやっつけているとき、みんなは自分で自分を守れなきゃいけないときもくる。そのための強さも必要なんだ。
だからみんながんばろう。そのための力を身に着けよう……じゃあ話は終わらないんだよね。
例えばさ、今、僕の書いてるメッセージを読んでくれている人の頭の上から核爆弾が落ちてきたら防げますか? ……無理でしょう、おそらくは。迎撃システムがある? 間に合わないでしょう。隕石がおちてくるかもしれない。
こんなたとえ話は笑い話と変わらない。それぐらい、死っていうのは健康に生きている人間にはほど遠いもの。でも、今の僕には割と身近にあるもの。僕はみんなに守られなければ生きていけない人間なんだ……でもそれは……僕ひとりじゃないんだ……僕にだって守れる存在があると思うんだ……そう信じたいでしょう?
だから僕にはお気に入りのぬいぐるみがあるんだ。さっきも言ったよね? ドナルド、ピーターパン。くまのプーさん。やさしいほうだよ、もちろん。
僕は毎日、みんなを守って一緒に寝ているんだ。いつもありがとうって? いえいえこちらこそありがとう。
……もう外は真っ暗だね、今何時だろう。眠たくなってきちゃった。
……そうだね、そろそろ寝ようか。
じゃあ最後にもう一度。誰が考えたのか思いついたのかわからないみんなを笑顔にできる魔法の言葉。
ありがとう。
僕はこの言葉を信じて明日へ託そうと思います。
ではこのへんで。
おやすみなさい。