あなたがいなくなった朝 晶子
あなたがいなくなった朝だって
それに気付かないくらい
世界は豊かだ
恋人達は目覚め
相手を思い
寒い朝も
ほんの少しだけ温かくなる
小学生は
好きな話が一つぐらい載ってる教科書をランドセルに入れて
通学路の足触りを確認している
どんなに遅くなっても
今年も季節は巡ってくれて
車のラジオからいつも通りの声が聞こえて
金色の落ち葉が舞っている
起きた途端に
今日の予定を考えても理由が思いつかない
重たい身体と心を抱えて
きっと昨日の何気ないことから来るのだろうと
自分を納得させて
朝のルーティンの中で
あなたの死去のニュースを知った
泣くこととは違うのかも知れないけれど
今日の強い風に
雲間から温かい陽射しが一瞬顔にさして
目のまわりが温かくなった
こんなに世界が豊かだから
あなたはやっと
言葉から解放されて
言葉の源に還っていった
あなたのいなくなった世界は
あなたのいてくれた世界だ